最近、ある問題に悩まされている。
「自分が『ダ・ヴィンチ』の表紙を飾るとしたら、何の本を持つか」問題。
その日そのタイミングで答えも異なるとは思うけど、今の私だったら、この本のタイトルを挙げる。
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村田沙耶香著「丸の内魔法少女ミラクリーナ」という小説を読みました。
可愛らしいタイトルに唆されたページを捲ったら最後。
読後感はちょっとずっしり来る。影が重たくなるような余韻。
後味が悪い、とはまた異なる次元。
まずは表題作「丸の内魔法少女ミラクリーナ」。
子供の頃に熱中した魔法少女ごっこを大人になっても続けているリナが、モラハラ彼氏に悩む親友レイコを守るために、彼氏にある挑戦状を叩き付ける物語。
続いて「秘密の花園」。
初恋の相手である早川くんを忘れられない千佳が、ひと夏の間彼を監禁し「思い出作り」をする。
「無性教室」。
短く切った髪。胸の膨らみを押さえつける専用の制服。一人称は全員「僕」。クラスメイトに自分の性を明かすことを校則で禁じられている学校に通うユートの物語。
「変容」。
ファミレスでパートとして働き始めた真琴。バイトの学生たちと関わっていく中で、若者から「怒り」の感情がなくなりつつあることを知る。
以上4つの作品からなる短編集。
いずれも、ありそうでありえないような、ありえなそうでありそうな世界を描いている。
一番好きな作品はどれだったかと聞かれたら即答できないけど、この4作の中から1つだけ映像で観られるとしたら、
「秘密の花園」。
好きな男の子を監禁するという衝撃的な独白から始まるこの章は、端々がおとぎ話のように空想めいている。
「思い出作り」と名付けた監禁生活を通して、不思議な関係を構築していく早川くんと千佳。
その夢のような日々の色彩は、2人がキスをした瞬間にひっくり返る。
おとぎ話の中のキスは、時に呪いを解き、時に長い眠りから目覚めさせ、時に愛し合う2人の障害を打ち砕いてきた。
千佳にとって、この初恋は呪いだったのか。救いだったのかが判明するクライマックス。
早川くんのラストシーンは少し腑に落ちなかったけど、含みがあって、好きな人がこの本を、ひいてはこの章を読んだ感想を知りたい、と思う。
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ちなみに「変容」は「世にも」っぽい。これはすごいリアル。近い未来の自分を想うと他人事とは、フィクションとは言えない。
アンガーマネジメントとか、否定しないツッコミとか、とにかく「怒ること」へのアンチが高まっている現代の延長線上に、この物語は存在している。
何なら、いまの60代以上の世代の人からしたらこの物語は既にノンフィクションなのかもしれない。
耳慣れない言葉が飛び交い、当たり前だったものが淘汰されていく「トレンド」という名前のホラーを、私は受け入れられるか。
小説を読んでここまで色々考えを巡らせたのも久々で、ざっと調べてみたらこの本、なんの賞にも引っ掛かってないらしくてパニックになった。
賞なんて当てにならんな。