「ね、なぜ旅に出るの?」
「苦しいからさ。」
「あなたの(苦しい)は、おきまりで、ちつとも信用できません。」
「正岡子規三十六、尾崎紅葉三十七、斎藤緑雨三十八、国木田独歩三十八、長塚節三十七、芥川龍之介三十六、嘉村礒多三十七。」
「それは、何の事なの?」
「あいつらの死んだとしさ。ばたばた死んでゐる。おれもそろそろ、そのとしだ。作家にとつて、これくらゐの年齢の時が、一ばん大事で、」
「ついにゴッホ(37歳没)の年齢を超えちゃったんですよ。次は太宰治(38歳没)が待っているので、ひょっとしたら僕も何か書かなきゃいけないのかな?とかは考えますね(笑)。で、39歳になるとチェ・ゲバラ、40歳にはジョン・レノンがいて……という。昔は自分よりも年上だった偉人たちの年齢に、気が付いたら近付いてしまって『あの人たちは偉業を成し遂げているのに、自分はなんなんだろう?』とは思います」
──A.B.C-Z「F.O.R-変わりゆく時代の中で、輝く君と踊りたい。」インタビュー|戸塚祥太が語る新作とアイドル論 - 音楽ナタリー 特集・インタビューより
夢にまで見た、大好きなアイドルのソロコンサート。
それを“今日”と呼べる日が、遂に来た。
【戸塚祥太 Solo Tour 2024 guerrilla love@Zepp Haneda 10/26公演】
- 1.新曲①guerrilla love
- 2.ドラマ(2015)
- 3.君といた(2013)
- 4.V(2016)
- 5.月に行くね、光の連続(2024)
- 6.新曲②Departed
- 7.新曲③散歩
- 8.Knee Socks
- 9.Sex
- ~ポエトリーリーディングコーナー~
- 10.Fly
- 11.Replicant,Resistance
- 12.Lonely Dancer(2017)
- 13.If you don't know break up you don't know love(2023)
- 14.Dolphin(2017)
- 15.トキメキイマジネーション(2014)
- 16.星が光っていると思っていた(2022)
- EC1.頑張れ、友よ!
- おわりに
曲名に続く()内は発表年。
※この先8000字以上の文章となります。忙しい方は『おわりに』だけでもご覧頂ければOKです!!
整理番号順に入場してから、改めてL、O、V、Eの4ブロックに振り分けられる。Arctic Monkeysのアルバム『AM』が流れている。
Elvis Presleyの『Love me tender』が流れ、バンドメンバーの方々に続いて戸塚さんが登場。
片手にウイスキーボトル(中身は不明)、もう片手にカート・コバーンの『病んだ魂』。真っ赤なギターを引っ提げるスーツ姿はAlex Turnerのように見えて彼よりもラフで、『レザボア・ドッグス』の中に放り込むにしては些かいたいけで危うすぎる。そのスタイリングひとつにしても、きっと様々なスターへのリスペクトが籠って混ざり合っていて、その結果としてオリジナリティをもって昇華される、“戸塚祥太”というジャンルのエンターテイメントが私は好きだ。
1.新曲①guerrilla love
L!O!LOVE!の曲(記憶がなさすぎるだろう)
100年経ったらどうせみんな死ぬ!!みたいな歌詞だった気が
真っ黒のサングラスを着用。
「『guerrilla love』へようこそ!歌って踊ってジャンプして、幸せになろう!」
2.ドラマ(2015)
戸塚さんが演奏の傍ら手を挙げて優しく煽ってくれて、ライブハウス初心者の方でもノリ方がわかりやすかったと思う!
10代の頃から好きだった人にあんなに優しく格好よく「跳べるかい?」と尋ねられたらもう応えるしかない。
「『どうせ僕なんてまあ』 もう言えない星の眩さが照らすから」という歌詞の“星”を“君”と歌い変えていてメロメロになったー💖💖💖
3.君といた(2013)
好きになったばかりの頃からずっとずっと支えてもらってきた曲。まさか生で聴ける日が来るなんて。
是非歌ってほしい気持ちはありつつも、今の戸塚くんが歌ったら意味合いが変わってきてしまう、“君”が特定の人になってしまう気がして勝手に悩んでいたけど杞憂だった。“君”は誰でもなかったし、私のことだったし、同じ会場にいた全員のことでもあったし、彼のことでもあったと思う。それがすごく嬉しかった。
この曲にかぎらず戸塚さんの歌詞では“君”が頻出ワードで、そういうフレーズを歌うたびに勝手に戸塚さんを指さすのが楽しかったな。戸塚さんに幸せが訪れるように、直接祈れてよかった。 絶対絶対大丈夫だよ。
4.V(2016)
初めて入ったえび魂で披露したソロ曲。当時の気持ちを思い出して泣きながら聴いてた。「いつでも 今でも」で身体を揺らすのが好き。
戸塚さんに「歌える?」と訊かれてラスサビ前の「Wow…Yeah…」の応酬が始まる一幕も。戸塚さんから「120点‼️」頂きました!
戸塚さんがパフォーマンス中楽しい時にやってくれる、舌を思い切りべーっと出して笑うやつがたくさん見られて嬉し~~~!!
5.月に行くね、光の連続(2024)
入る予定だったえびツアー大阪が延期になったので、この曲とはここで初めましてでした。
過去のソロ曲のエッセンスが少しずつ織り込まれた感じ。ツアーのレポで見聞きする限りでは結構磨り減らしながらやっていたようだったけど、そういう公演も経てポップな仕上がりで見られました。他の曲は比較的一定のスタンスを保ってやれている印象だけど(だから10年以上前の曲でも無理矢理感なく歌えてる)、この曲は結構局所的で衝動的な感情が強く籠っているから、その日の戸塚くんのコンディションでだいぶ左右されそうだなとは思う。それこそ経年の変化を味わえるvintage的な曲。
歌い終えると会場中から歓声が。
男性客の方から「とっつーカッコいい‼️‼️‼️‼️‼️」と力強い声がかかり、思わず相好を崩す戸塚さん。
その声に続けてひときわ通る声が。
「とっつーカッコいい‼️‼️‼️‼️‼️」
(^∀^)「wwwwwww……この声はwwwwww」
「とっつーカッコいい‼️‼️‼️‼️‼️」
(^∀^)「wwwwwwこ、この声はwwwwww」
※見学②ふぉ~ゆ~辰巳雄大さん
気を取り直して公演の話を。
(^∀^)「見ての通り、バンドスタイルでやらせてもらっています。もしかするとこういった会場(ライブハウス)に不慣れな方もいらっしゃるんじゃないかと思うんですけど。呼吸できてますか?大丈夫ですか?」
\大丈夫ー‼️/
(^∀^)「今日はこのバンドメンバーと、会場にいるみんなと、幸せになるよ」
(^∀^)「最初に歌ったのは『guerrilla love』という新曲です。2020年にできた曲なんですけど、こうして聴いてもらえてよかった。この後も新曲をやっていきます」
6.新曲②Departed
レオナルド・ディカプリオ主演映画から命名とのこと。
戸塚くんに合わせてバンドの皆さんもステップを踏む場面があって格好良かった。
7.新曲③散歩
「どうして?それは?なんで?あなたが?」
ソロ曲って出せて年に1曲なので、その時の戸塚くんのやりたいこととか言いたいことをギュッと4~5分にしてまとめなきゃいけなくてやる側も見る側もハイカロリーになりがちなんだけど、そういう縛り抜きで、かつ戸塚さんの中のトレンドや思想を練り込んで作れた曲という感じがして良かった。 作曲も戸塚さんだと後から知って納得。
8.Knee Socks
Arctic Monkeysのカバー。
ギターリフがめっちゃかっこいい。
洋楽カバーは想定内だったけど「Tuesday night」って歌詞あるの粋だな~!(初日が火曜夜だった)
この時点で戸塚さんの発汗がすごくて、ジャケットの裾から汗が絶え間なく滴り落ちていて「大丈夫?!?!」になった。
9.Sex
THE 1975のカバー。
若者の性の儘ならなさみたいなものを描いていて、オリジナルは疾走感があってポップな曲調だったからだいぶスロウリーでイノセントなアレンジが施されていてびっくりした。
テンポは原曲よりスローで大人っぽく、歌声のキーは少年みたいに高いアンバランスさが絶妙だった。
~ポエトリーリーディングコーナー~
赤い冊子(おそらく黒川隆介さんの詩集『火の玉』)を手にした戸塚くん。バンドの生演奏をバックに、自作の詩『河に』(河に…)を朗読。
「君に指摘された賞味期限切れの調味料を、昨日やっと捨てました。」
これまでのソロ曲同様、太陽(沈む日)が印象的な内容で、聴き入りながら「そういえば祥太の太って太陽の太だな」などと思ったり。
そして、戸塚さんの知己であり詩人の黒川隆介さんが同じ本を持って登場。黒川さんの紡ぐ言葉を戸塚くんが追い掛けたり、声を重ねたり。さながら連弾のよう。 黒川さんと声をあわせて詩を読む時、ちょっと大げさに息を吸う音をマイクにのせて合図を送る戸塚くんがすごく好きだった。
黒川さんがお1人で朗読をしているのを聴いている、スポットライトに照らされる戸塚さんの立ち姿が神々しかった。詩集を持つ黒川さんの手が震えているように見えて、生身の人間のパフォーマンスを見ているな……と実感しながら固唾を飲んで拝聴しました。
朗読を終え、お互いが持っていた詩集を交換し、目線を交わす姿が素敵でした。
「僕は16歳から詩を書いていて20年以上になりますけど、詩を生業にしている者からみても、戸塚さんの言葉の遣い方は素晴らしい。詩人・戸塚祥太に拍手を」(黒川さん)
他にも、メディアの様々なランキングに立て続けに戸塚くんの名前が載った話題を振ってくれる黒川さん。
(^∀^)「長髪が似合う1位って誰なんだろう?やっぱり永野さんかなぁ(髪をかき上げる永野のポーズ)」
(^∀^)「先輩なので」
人生の、とか広義の意味合いでの『先輩』発言だと思うんだけど、戸塚くんの自認がグレープカンパニー所属だったらどうしよう
そして会場に来ていた永野(大好き♡)
「戸塚祥太 Solo Tour 2024 guerrilla love」を観ました!
— 永野 (@naganoakunohana) 2024年10月26日
とっつーのエンターテイナーっぷりに圧倒されました!
感動しました!!
とっつーは凄い!
観て良かった!!#guerrillalove #戸塚祥太 #ABCZ pic.twitter.com/Jpn6Xckwjh
戸塚さんと黒川さんは同じ楽屋だったそう。
「祥太くん、開演前に『ここにいる(人生が)つまんない人をいなくならせたい』と言っていたよね。実現できていると思います」(黒川さん)
「大阪公演の時点ではサプライズにしたいと言っていたので、家族にも内緒にしていたんです。初めてのソロコンサートで詩人をサプライズで出したいなんてめちゃくちゃ変わってると思う…笑。もっと華やかな人がいるでしょ」(黒川さん)
(^∀^)「詩人は1番華やかですよ。自分の言葉を紡いで、世界を翻訳してくれるわけですから」
「戸塚祥太というアーティストがどういう風に成り立っているのか、戸塚祥太を構成する1つ1つの光の粒が視覚化されていて感動しました。本当に素晴らしい」(黒川さん)
ここは戸塚さんのステージなんだし僕はもうこれで……と低姿勢な黒川さんに、えー!そんなことないよー!とオタク達。
(^∀^)「ねっ!そうだよね!」
袖に捌けていく親友を名残惜しそうに見送る戸塚さん。黒川さんは最後に客席に向けて深く一礼し退場されていきました。
終演後、戸塚くんが出演していた朗読教室を舞台にしたドラマ『この声をきみに』 が見たくなって久々に見返しました。河合くん(紛らわしい役名)好きだったな。
ここからバンドメンバーともお話を。バンドマスターのパクシンさんがギターのクマガイさんのお名前を間違えてしまったことでワイワイしたり笑
「祥太くんはリハで上手くいかなかったところを、次の日には必ず仕上げてくるんです。バンド業界ではなかなか見たことがないくらい素晴らしいミュージシャン。だから僕達もいつもより家で練習したりして笑」(パクシンさん)
ここからは撮影可能タイム………と思いきや?
(^∀^)💦「ストップ!!!ごめんちょっと、、!!!止めます、、、!!!!!!💦💦💦」
戸塚さん、撮影可能のアナウンスをすっかり忘れて歌い始めてしまい「もっかい最初からやらせてください!!!!」
(^∀^)💦「早急に説明し始めてしまいすみません。ここから3曲は、スマートフォンでの撮影が可能でございます!撮りたい人は撮って、『心のフィルムにアタシは焼き付けるんだ😎』と言う人はそういうスタイルでも良いです!のちのちSNSにアップしちゃったりなんかしちゃっても構いません」
オタクもオタクで、先の大阪公演では撮影OKだったことをレポで把握している人が多い中、(……?)(あくまで大阪だけのサービスだったのかな……?)と探る雰囲気が漂っていたのちょっと面白かった。戸塚くん気付いてくれて、そしてすぐに仕切り直してくれてありがとう!
これはこれで現地にいた人しか観られない幻のFlyが観られたということで!
(^∀^)「撮るとねぇ……蟹を食べてるみたいな状況(=集中して静か)になっちゃいますけど。ノッちゃっていいんで!」
(^∀^)「やってみよう!行ってみよう!guerrilla?」
\LOVE‼️/
10.Fly
SMAPのカバー。2018年のABC座にて披露。
仁王立ちしながらスタンドマイクで歌う姿が実に画になる。
間奏では永野ポーズを再び。
終盤はマイクスタンドを高く掲げてフィニッシュ。
Shota Totsuka Solo Tour 2024 #guerrillalove
— きそがわ (@ksgw___8) 2024年10月27日
10/26 Zepp Haneda
“Fly” #戸塚祥太 pic.twitter.com/uMJYOiJ3Zj
11.Replicant,Resistance
錦織一清さんのカバー。2023年のABC座にて披露。
私を戸塚祥太さんメロメロ部に引き戻した楽曲を1年も経たずもう1度観られて嬉しい!
12.Lonely Dancer(2017)
スタンドマイクで凛と歌うFly、熱く踊るReplicant~からより自由にステージを往来する戸塚さん。拡大して動画撮ってたら歌いながら迫り来た戸塚さんで画面も視界もいっぱいになって死ぬかと思った。
13.If you don't know break up you don't know love(2023)
ソロ曲というよりも、もっと創作物として独立した位置付けだと勝手に思っていたので驚き。
昨年の帝劇では大勢のJr.を従えて、精神のストリップショーのような魅せ方をしていたこの曲を今回はソロで。下手側に置かれた全身鏡に映る自分と向かい合ったり、オープニングで持っていた『病んだ魂』を開いて顔を埋めたり……。
後々思い出したのは映画『パーフェクトブルー』。
アイドルを卒業して女優に転身した主人公が、窓ガラスに映ったアイドル時代の自分に責められたり、「私が本物」と言われたりしてどんどん自分を見失って不安定になっていく物語。行く先々に現れるもう1人の自分に「あなた、誰なの?」と問い掛けるこの映画のシーンが、この曲の戸塚くんと少し重なった。
本当の自分は本当にここにいるのか。それとも鏡の向こうなのか。その証左はなんなのか。
まず喪失の物語として紡がれたこの曲が、自分とは何者なのか、今自分は何を持っているのかを追求する新たなフェーズに移ったようにも受け取れる。
14.Dolphin(2017)
渦のような感情を言葉に乗せて、がむしゃらに疾走するようなポエトリーリーディングの要素を取り入れ始めた頃の曲。
発表当時はこのチャレンジングな要素を理解しきれなかった部分があったけど、今はめっちゃ大好き!晴れた空、眩しい海、研ぎ澄まされた空気と感覚。アトラクションのように鮮やかな情景が浮かび上がる。
15.トキメキイマジネーション(2014)
会場の温度がぶわっと上がった体感。敬愛する作家の1人である伊坂幸太郎さんとのやり取りの中で生まれた楽曲です。
戸塚くんがかなりポップな路線に全振りしてくれた貴重な楽曲で、音源化もなく幻のソロ曲と化していたのがここで復活!こちらもコンサート円盤でしかパフォーマンスを観たことがなく、念願が叶いました。
「戸惑いも隠し事も 連れてくればいいじゃない」でこちらを手招く姿が相変わらずラブリー!!!すっごく大っ好き!!!
16.星が光っていると思っていた(2022)
公演前日にXYZコンの映像を見返していた時もざっくざくに泣いてしまって、今回も「才能って何だと思う?」の畳み掛けのシーンで泣いてしまった。
大阪のレポを見ていたので、「RUN!A.B.C-Z!」のあとの「RUN」を全力で言えて悔いなし。
何度聴いてもカタルシスに浸る曲終わりのフレーズ。呼応するように煌めくミラーボール。ゆっくりと天を仰ぐ戸塚さんの輪郭がただただ美しかった。
ひとまずここで終演。
会場中の「とっつー!」コールを受け、グッズのスウェットTとブレスレットライトを身に付けた戸塚さんとバンドメンバーが再登場。
「名前を呼んでくれてありがとう」
「呼吸できていますか?居心地は悪くないですか?子供の頃、友達の家に遊びに行って、……あぁ、なんかもう帰りたいなぁ……、っていう時みたいになってませんか?笑」
「今日は色々な曲を歌って来ましたが、僕が1番リスペクトしている、世界で1番格好いいと思っている、そんなグループの曲を歌いたいと思います。この曲でZepp Haneda、1つになりましょう。皆さんも多分知っている曲だと思います。知らなかったらゴメン!笑」
EC1.頑張れ、友よ!
1番サビで戸塚さんがマイクを客席に向け、羽田の夜に響き渡る大合唱。
眩しさなのか、遠くの客席を見ようとしているのか、時折目を細めながらステージを駆ける戸塚くんを見ながら、あなた1人の為に集まる人がこれだけいるんだよ、と強く強く念じていた。
バンドメンバーの皆さんが楽しそうに肩を組んで先に捌け、戸塚さんが客席へ向けて手でハートを向けてくれました。捌ける間際には投げキッスも!
おわりに
この公演の1週間前、変な夢を見た。
A.B.C-Zには河合さんがいて、代わりに(という表現は適切ではないだろうけど)戸塚くんがいなくなってしまった世界だった。
そんな日々の中で、夢に戸塚くんが出てきた。ようは、夢の中で夢を見る夢を見た。
「これは夢だ。戸塚くんはもういないんだから」と気づいて、目の前に立つ戸塚くんに遺される側の苦悶や葛藤を必死に説いていた。
二重の夢から目を覚ますと、ここは戸塚くんがいる世界だった。河合さんはもうA.B.C-Zにはいないけれど、Xを開けば、戸塚くんが彼の誕生日を祝っている。そしてその投稿にすぐ気付いてありがとうと返す河合さんがいる。これはこれで変な世界なような気もするし、これ以上に最適な世界はないようにも思える。
悲しいことも、儘ならないことも、傷つけたことも、楽しいことも、馬鹿馬鹿しいことも、たくさんあった。
それらを全て通過してきて今。今で本当によかった。
私も、あなたも。
私にとって戸塚くんは、雨の日に傘を差し出してくれる人ではない。一緒に雨に打たれてくれる人でもない。傘を持つ人を羨んでは、こんなに雨に降られっぱなしなのは私だけなのかな、と崩れそうになっていた時に出逢った、私よりずっとずぶ濡れの人。それがあまりにも情けなくておかしくて、愛おしかった。
お互いに傘を差し出せるほどの距離へ踏み込み合うことはできないけれど、己の身に降り注ぐ雨粒さえも抱きとめて慈しむような、その姿が遠くに見えるだけでどれだけ救われたことか。
私には私にだけ降る雨があり、戸塚くんには戸塚くんにだけ降る雨がある。他人の雨を笑わない。比べない。軽んじない。雨は冷たくて悲しいばかりではない。私は戸塚くんからそう教わった。
スーツのジャケットから汗を滴らせ続けながらステージに立つ戸塚さんは、まるでゲリラ豪雨の最中にいるみたいだった。
それでもやっぱり、光を浴びて燦然と泰然と生命を全うする戸塚くんの美しさは格別だ。
私と戸塚さんの間には10歳以上の歳の差がある。戸塚さんが芸能の道を選ばなかったとしたら、生まれ育った街も違うから、同級生や先輩後輩にはならない。サラリーマンをやる性分でもなさそうだから、私の上司や取引先にもならないだろう。私が蛍光灯の下でひとりぼっちで泣く時、戸塚くんは大勢の前でスポットライトを浴びて踊る。そんな相容れない、混ざり合わないはずの私達の運命を、私達が主体的に捻じ曲げるこの瞬間こそが、戸塚くんが言うところの『時が止まる交差点』なのかもしれない。
公演中、こちら側の客席に近づいてきてくれて。
先週見た夢と同じ構図だった。私のまっすぐ先に本物の戸塚くんがいた。
目線は遠くの客席を見ていたけれど、大好きな人に向かって「ありがとう」とめいっぱい声を上げた。
もっと気の利いたことや、可愛いことを言えたらよかったのかもしれないけれど。結局1番伝えたいのはその一言に尽きた。
ありがとう。
どうしようもない子供だった私と出逢ってくれてありがとう。
大人になった私ともう1度出逢ってくれてありがとう。
ずっと走り続けてくれていてありがとう。
今ここで生きていてくれてありがとう。
前借りでも後出しでもない、今思った「ありがとう」を今伝えさせてくれてありがとう。
またどうしようもない雨が私に降り注いだ日は、この夜の思い出を傘にしようと思う。
戸塚くんにとっても、そうであったら嬉しい。